4.212023
新緑の季節。完全に冬との間(はざま)から解放された感じである。もう寒さというものは一切感じなくなった。これから夏に向かってまっしぐらというところか。古里ではそろそろお茶が始まるのではないかと思う。隣りの製茶工場から新茶を蒸す何とも言えないいい香りが漂ってきたのがこの季節。高校生位になると、その隣のおっちゃんから「おーい、みっちゃん手伝って!」と声を掛けられる。隣りとは田んぼを挟んでいるから大きな声である。服を着替えて走っていく。翌朝まで続く徹夜のアルバイト。私は素人、最初の蒸す担当である。新芽を蒸気の中に放り込んでいく、暑いのなんのってものじゃない。若者でないとできないだろう。今だったら労働基準法に引っかかるほどの過酷な仕事である。しかし楽しかったことしか覚えてないから不思議である。当時は手摘みが主流で、誰々さんは手早いとか、誰よりも多く摘んだとかそんな会話が飛び交っていた。今は機械であっという間だが、その分産業としては成り立たなくなってしまった。手作業のあの頃が懐かしく、手摘みの方が絶対に美味しいに決まっている。古里を離れてもお茶だけは今も故郷産である。あれからもう50年以上になる。一緒に働いたあの人達も今はもう誰もいない。あの香りは今もしっかりと心の中に残っている。
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