満月散歩

突然 Ⅲ

姉とは一回り違い。物心ついたころには姉の姿はなく、中学を卒業してすぐに集団就職で都会に出ていた。盆と正月に帰ってくるだけの人だ。しかし街で買ってくれる珍しい土産が楽しみでしょうがなかった。一緒に遊んだり勉強したりという経験はなく、姉というより大人という感じが強かった。私には姉が3人いるが下の2人は名前で呼び、姉さんと呼ぶのはこの長姉だけである。私の子守担当は姉さんで、下の姉が弟の担当。下の姉はその頃のことをよく話してくれたが、長姉は話を聞きながらにこにこと笑っているだけで何も話してくれなかった。私の頭に傷跡が小さな禿になって残っているが、これはどうも長姉の仕業のようである。これに関しても笑うだけで何も言わない。詳細は下の姉に聞いたが果たして本当かどうか。多分私の知らない思い出は一杯あったのだろう。そしてこんな歳になった今でも大切に接してくれた。思い出の顔は笑顔しか浮かばない。半年前にひ孫が生まれたと喜んでいた。その顔を見て逝った姉さん。長生きするということはたくさんの楽しい出会いがあるが、その分悲しい別れも経験しなくていけない。しかし永遠の別れというのは本当に悲しい。

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